運の悪戯、運の味方
午後の日差しが穏やかに降り注ぐ草原で、のび太はプルルンと並んで腰を下ろしていた。リューシカは近くの木陰で昼寝中――らしい。
「ふぅ……今日もいっぱい歩いたなぁ。プルルン、君も疲れてない?」
「ぷるるっ♪」
のび太の手に跳ね乗ったプルルンは、まるで「まだまだ元気だよ」と言わんばかりに揺れた。その無邪気さに、のび太はくすっと笑った。
「なんかさ……君といると、ちょっとだけ強くなった気がするよ」
その時だった。背後の茂みががさりと揺れた。のび太はびくりと肩を跳ね上げ、慌てて立ち上がる。
「ま、また魔物っ!?」
だが茂みから現れたのは、野ウサギのような小動物だった。
「な、なんだ……ビックリさせないでよ……」
その直後、のび太の足元に落ちていた石がコロリと転がる。転がった先にあったのは、地面にぽっかり空いた小さな落とし穴――のび太は気づかなかったが、まさにその一歩手前で止まっていた。
「……え?」
振り返ると、プルルンがわずかに揺れていた。まるで落とし穴の存在を察して、のび太を止めようとしたようにも見える。
「さっきの茂みの音も……もしかして、わざと注意を引いた……?」
のび太はプルルンを見つめた。そのつぶらな瞳は何も語らないが、そこには確かに意志が宿っている気がした。
「ねぇ、プルルン……君って、運がいいの?それとも……僕の運がいいの?」
「ぷるっ♪」
曖昧な返事に、のび太はまた笑った。だけど、確かに“運命”のようなものを感じずにはいられなかった。
――そして、運命はもう一つ、のび太に試練を与える。
突如、村の鐘の音が草原に響き渡った。のび太とリューシカは顔を見合わせ、急いで戻る。
「な、なんだろう……?非常事態?」
村の広場に駆け込むと、村長らしき初老の男性が、集まった村人たちに何かを叫んでいた。
「西の森から、魔物の痕跡が見つかった!すぐに自警団を……!」
「魔物……また?」
リューシカの顔が曇る。だがのび太は、その時ふと気づいた。――なぜか、自分の手が震えていない。心臓がバクバクしているわけでもない。
「僕、行くよ」
ぽつりと呟いたその声に、リューシカは驚いたように目を見開いた。
「……あんた、自分がどれだけ弱いか分かってる?」
「うん。レベル1だし、筋力も1だし。でも……それでも、何かできるかもしれないって思ったんだ」
のび太はプルルンを手のひらに乗せた。
「僕には、仲間がいるから」
風が吹いた。村人たちのざわめきの中、小さな決意が草原に立ち上がった。
その姿はまだ、か細いし、頼りない。けれど、確かに“前へ進もうとする意志”だけは本物だった。
異世界でも、のび太はのび太――だけど、“ただののび太”じゃない。
彼はもう、逃げるだけの少年ではなくなっていた。
今回のまとめ
第6話では、異世界の生活に慣れ始めたのび太が、“自分はのび太のまま”でありながらも、少しずつ成長していく姿が描かれました。スライムのプルルンとの絆はさらに深まり、運の良さが絶妙なタイミングでのび太を助けてくれます。
過去の自分なら逃げていたはずの事態に対し、のび太は「行く」と言えるようになりました。まだまだ弱く、無力な少年――でも、確かな一歩が踏み出された回となりました。
次回は、村を脅かす魔物の存在に、のび太がどう向き合うかが描かれます。
次回、第7話『謎の美少女剣士登場』もどうぞお楽しみに!
のび太が異世界転生!?ファンタジー世界で生き残れるのか?/関連記事
◇前回
-
-
のび太が異世界転生!?ファンタジー世界で生き残れるのか?第5話 初めての仲間はスライム
前回のあらすじ 第4話では、のび太が初めて魔物と遭遇し、命の危機にさらされるという衝撃の体験をしました。恐怖に駆られて泣き叫びながら全力で逃げる中、リューシカの助けによって命拾いを果たします。 逃げる ...
続きを見る
◇次回

