魔物に追われて泣きながら逃走(後編)
村に戻ったのび太は、もう何も言わずに藁の上に転がった。息が上がり、全身が汗と土でべたべたになっていたが、それどころではなかった。
「……はぁ、心臓止まるかと思った……」
心底ぐったりとしながら呟いたのび太の隣で、リューシカが冷たい水を差し出した。のび太は何も言わず、それを一気に飲み干す。
「今ので分かったでしょ。こっちの世界は、常に命がけ」
「わ、分かりました……分かったから、しばらく草原禁止にして……」
のび太の訴えに、リューシカはクスリと笑う。
「まあ、よく逃げ切ったよ。敏捷2とは思えないスピードだった」
「僕、逃げ足だけは小学校の頃から褒められてたんだ……」
どこか誇らしげなその顔に、リューシカは肩をすくめた。
「その特技、案外この世界じゃ生き残る鍵になるかもね」
のび太は苦笑いを浮かべたが、心の中では少しだけ安心していた。あんな恐ろしい目に遭ったにもかかわらず、「自分は無力なだけじゃない」と、初めて認められた気がした。
夕方になり、空が赤く染まり始める頃。リューシカが持ってきた夕食を前に、のび太はぽつりと呟いた。
「ねえ、リューシカ。僕さ、この世界で少しずつやってけるかな?」
「うん、やってけるよ。逃げ続けても、生きてれば次のチャンスはくる」
「でも、逃げてばっかじゃ……」
「“逃げる”ってのは、“生き残る”ってことでもある。あんたは今日、正しい選択をした。それに、ちゃんと助けを呼んだ。それができるだけで、この世界じゃ立派な能力さ」
のび太は目を見開いた。
「能力……」
「そう。“運が良かった”で済ませちゃダメ。自分の行動が繋がって、生き延びたんだよ」
言葉のひとつひとつが、のび太の胸に染み込んでいく。
「ありがとう、リューシカ。……僕、もうちょっと頑張ってみるよ」
その言葉にリューシカは少しだけ微笑み、スープをすくった。
「じゃあ明日も訓練ね」
「うぅっ……」
のび太の冒険はまだ始まったばかり。けれど確かに、彼は今日、“生きる力”を手に入れた。
そしてその夜、のび太は泥のように眠りについた。異世界の星空の下、彼の寝息はどこか穏やかで、確かな未来を感じさせるものだった。
今回のまとめ
第4話では、のび太が初めて“魔物”と真正面から出会い、命の危機に晒される緊迫の展開が描かれました。恐怖で泣き叫び、必死に逃げるのび太でしたが、それでも生き延びることができたのは、彼自身の行動と“逃げ足”の早さによるものでした。
リューシカの言葉に支えられながら、彼は“逃げる”ことすら立派な力だと知り、小さな自信を得ます。最弱の少年がまた一歩、冒険者として前進しました。
次回、第5話『初めての仲間はスライム』へ続きます!お楽しみに!
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