目が覚めたら異世界だった(後編)
少女はのび太の前にしゃがみ込み、じっと彼を見つめた。どこか警戒するような目。けれど、その奥には興味の色も見え隠れしていた。
「本当に、記憶がないのか?」
「き、記憶はあるよ!でも……目が覚めたらここにいて……なんでか分からないんだ……」
少女は立ち上がり、背後に倒れた魔物を一瞥した。
「なら、まずは安全な場所に行こう。こんな所で座り込んでたら、次は運が尽きる」
そう言って、彼女は手を差し出した。のび太は少し迷ったが、震える手でその手を握った。少女の手は意外なほど温かく、力強かった。
「ありがとう……助かったよ……」
「別に助けたかったわけじゃない。あんたが魔物に食われてたら、この辺りが騒がしくなるだけだから」
ぶっきらぼうな物言いに、のび太は苦笑いを浮かべた。だが、心のどこかでほんの少しだけ、安心していた。
少女の名前はリューシカ。辺境の村に住む剣士で、定期的にこの草原を巡回しているらしい。
「まったく……異世界人がまた流れ着いたのか。最近多いんだよね」
「えっ、他にもいるの?」
「まあね。でも、あんたみたいに丸腰で来るのは珍しい。普通は何かしら“加護”を持ってるんだけど」
加護? チート? のび太の頭にはいくつもの疑問が浮かぶが、それを整理する前に、リューシカが歩き出した。
「とにかく、村まで来な。ここよりはずっとマシだ」
のび太は立ち上がり、彼女の後を追った。草をかき分けながら歩く道中、彼は何度も後ろを振り返った。さっきまでいた世界には、もう戻れないような気がしてならなかった。
しばらく歩くと、森の中に木造の柵で囲まれた小さな村が見えてきた。煙突からは煙が上がり、どこか懐かしい匂いが風に乗って漂ってくる。
「ここが、フィリアの村。しばらくはここで暮らすといい」
「……ありがとう、リューシカさん」
「リューシカでいいよ。さん付けされるの、慣れてないから」
二人が村に入った瞬間、子どもたちの笑い声と、犬の吠える声が出迎えてくれた。のび太はその光景に、ほんの少しだけ心がほぐれた。
だが同時に、現実味も帯びてきた。
――本当に僕、異世界に来ちゃったんだ……!
戸惑いと不安に包まれながらも、のび太の新たな生活が、静かに幕を開けようとしていた。
今回のまとめ
第1話では、のび太が突如として異世界に転移し、見知らぬ土地で魔物に襲われるという衝撃の展開から始まりました。恐怖と混乱の中、剣士の少女・リューシカに命を救われ、彼女に導かれて村へとたどり着きます。
現実の世界から何の準備もなく放り出されたのび太が、これからこの新しい世界でどう生きていくのか――その始まりとなるお話でした。
次回、第2話「ステータス確認…最弱!?」をお楽しみに!
