空手の流儀、ぶつかり合う意志――極限の“礼”
構えを取った独歩の気配が変わる。場の空気が一変し、まるで猛虎が息を潜めるような重圧が、観客席まで押し寄せていた。
「アレを使う…“虎殺し”のときと同じ構え…ッッッ!!?」
末堂の身体に、かつて感じたことのない恐怖が走る。だが、それ以上に彼の胸を熱くするのは、目の前の“師”が本気で相対してくれているという事実だった。
「オレの拳も、全てぶつけるしかねェッッッ!!」
末堂が突進する。踏み込み、地を割る勢いの踏みつけから正拳、膝蹴り、裏拳を続けて繰り出す。重さと速さを兼ね備えた猛撃。それを独歩は――
「シッ!!」
全て“紙一重”で躱す。僅かな体重移動と腕捌きで、巨漢の連撃を流し、削ぎ、崩していく。だが次の瞬間、末堂の拳がかすめた。
「……当たった…!?師範に…ッッッ!!?」
左頬から血が流れる独歩。それを舌で舐めると、微笑みながらこう言った。
「今の一撃……弟子の拳じゃねェな……“男の拳”だッッッ!!」
その言葉と共に、独歩の“牙”が剥き出しになる。拳の軌道が変わる。“実戦空手”が“殺人空手”へと進化する。
「ハアァァァァァッッッ!!」
咆哮と共に繰り出されたのは“地獄突き”!それを読んでいた末堂は、三戦立ちからの“カウンター肘”で迎え撃つ!
「キャオラッ!!」
互いの技がぶつかる――否、“交差した”瞬間。
「ゴキィィィィン!!」
爆音のような衝撃音と共に、末堂の肘が逆に跳ね上がり、体が弾き飛ぶ。
「グッ…は…ッッッ!!?」
体勢を崩した末堂に、独歩は止めを打つべく迫る。拳を構え、鳩尾へと向ける。 だが、その瞬間――独歩の拳が止まる。
「この拳が、今はまだ“刃”ならぬ“鞘”であることを、忘れちゃいけねェな・・・ッッッ!!」
拳は末堂の目前で寸止めされた。恐怖ではない。敬意からくる“止め”だった。 末堂は膝をつき、呼吸を整えながら頭を下げた。
「……完敗です、師範……ッッッ!!」
静寂が、そしてすぐに爆発的な歓声が地下闘技場に響き渡る。
愚地独歩VS末堂厚 地下闘技場に響く「虎殺し」と「怪力」の咆哮!
実況席から中継していたアナウンサーが叫ぶ。
「皆さんッッッ!!地下闘技場は今、大歓声の渦ですッッッ!!神心会総帥・愚地独歩、まさに“武神”の貫録を見せつけましたッッッ!!対する末堂厚も、その巨体に宿る執念と成長を示す名勝負ッッッ!!最後は寸止めという形で決着となりましたが、これは“勝敗”以上に“武”を見せつけた闘いでしたッッッ!!」
闘技の果てに残されたのは、拳を交えた師弟の“絆”そのものであった。
