前回のあらすじ
チート能力もアイテムも一切持たないまま異世界に転生したのび太は、リューシカの手引きでギルドから初依頼を受けることになりました。内容は単純な荷運びでしたが、筋力1ののび太にはあまりにも過酷で、転倒や腰の痛みといった失敗が続きます。
それでも彼は諦めず、自分の力だけで初めての銀貨を得ることに成功。絶望の中でも小さな成果とリューシカの励ましによって、のび太は異世界で“生きていく”覚悟をほんの少しずつ育て始めました。
■前回 のび太が異世界転生!?ファンタジー世界で生き残れるのか? 第3話 「チート無し!? 絶望の始まり」はこちら
-
-
のび太が異世界転生!?ファンタジー世界で生き残れるのか?第3話 チート無し!? 絶望の始まり
前回のあらすじ ステータス確認のため訪れた神殿で、のび太は自身の“最弱”な現実を突きつけられました。筋力1、敏捷2、MP4……まともに戦う力など皆無。しかし、唯一“運”だけは異常なほど高く、99という ...
続きを見る
魔物に追われて泣きながら逃走(前編)
朝焼けの色が村の屋根を淡く染めていた。今日ものび太は訓練場へと向かう。けれど、その道中で待ち構えていたのは――。
「今日は実地訓練。草原の外れまで行くぞ」
「えぇぇ!? やっぱりやるの!?」
昨日から告げられていた訓練内容に、のび太は朝から半泣きだった。
「見るだけって言っただろ。戦わせる気はない」
リューシカの言葉に納得しきれないまま、のび太は腰に木剣をぶら下げ、村の外へと足を踏み出した。
草原には小さな花が咲き、虫の羽音が心地よく響いていた。しかし、その平和さの裏に、確かに“気配”があった。
「リューシカ……魔物って、本当にいるの?」
「ああ。……ほら、あそこ」
指さされた先には、ゴブリンのような小柄な生き物が一体、木陰に潜んでいた。のび太はその姿を見て、背筋がぞわっとした。
「うわっ……なんか……すっごい怖い……」
「大丈夫。こっちには気づいてない」
その言葉に少しだけ安心したのび太だったが――。
「って、え? なんか……こっち見てない!?」
次の瞬間、ゴブリンがギロリと目を向けた。のび太の目と、魔物の目がかち合った。
「ひ、ひいぃぃぃっ!?」
ゴブリンは奇声を上げ、のび太目掛けて突進してきた!手には錆びた短剣が握られている!
「いやああああああっ!!?」
のび太は即座に踵を返して全力ダッシュ!逃げ足だけは速いのび太、その才能が今まさに開花する!
「待て、のび太!落ち着け!あれは単独だ、罠じゃ――」
リューシカの声も耳に入らず、のび太は草をかき分け、叫びながら逃げ続けた。ゴブリンの叫び声が背後から迫る。距離が縮まってくる!
「誰かーーっ!助けてーーー!!」
足がもつれ、石に躓く。勢いのまま前方に投げ出され、土の中に顔を突っ込むように転倒。
「いたたたた……もうダメだ……ここまでかも……」
恐る恐る振り返る。ゴブリンが数メートル先まで迫っていた。口元からは涎が垂れ、目には明確な殺意。
「うわあああああっ!!」
目をぎゅっと瞑ったその瞬間――。
ズバァァッ!
音と共に、冷たい風が吹き抜けた。のび太がそっと目を開けると、目前には切り裂かれたゴブリン。そして、その背後には、剣を構えたリューシカが立っていた。
「まったく……あんた、叫び声だけは一流ね」
「ううぅ……ご、ごめんなさい……」
彼女は剣をさっと収め、のび太に手を差し出した。
「でもまあ、逃げ足だけは認めてやる」
のび太は涙目で彼女の手を握りながら、心の中で叫んでいた。
――絶対に訓練なんてもう行かないって決めたのにぃぃぃっ!!

