前回のあらすじ
ステータス確認のため訪れた神殿で、のび太は自身の“最弱”な現実を突きつけられました。筋力1、敏捷2、MP4……まともに戦う力など皆無。しかし、唯一“運”だけは異常なほど高く、99という異例の数値を持っていたのです。
リューシカの導きで初めて木剣を手に取り、訓練に挑むも、結果は散々。でも、それでも彼は「この世界で生きてみる」と決意しました。最弱の少年の小さな一歩が、波乱の冒険の始まりとなります。
■前回 のび太が異世界転生!?ファンタジー世界で生き残れるのか? 第2話 「ステータス確認…最弱!?」はこちら
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のび太が異世界転生!?ファンタジー世界で生き残れるのか?第1話 目が覚めたら異世界だった
プロローグ 薄暗い部屋の中、のび太は机に突っ伏して眠っていた。夏休みの宿題も、明日の約束も、全部ほったらかしていた彼の手元には、漫画とお菓子の袋が散らばっている。時計の針は深夜を過ぎ、虫の声だけが部屋 ...
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チート無し!? 絶望の始まり(前編)
「これからギルドで依頼を受けてもらう」
朝、木漏れ日の差すフィリアの村の広場で、リューシカが言い放った。
「えぇ!? ちょ、ちょっと待ってよ!僕、まだ剣すらまともに振れないのに!」
「だからこそ、経験を積むんだよ」
リューシカの言葉にのび太は呻いた。心の中では、「せめて補助アイテムくらい……」とドラえもんの姿を思い出し、切ない気持ちになる。
だが、異世界にチートも道具も存在しない。あるのは自分自身だけだ。
ギルドに入ると、受付の若い女性がにっこりと微笑んだ。
「新規登録ですね。依頼内容に応じてランク分けされていますが、最初は“草刈り”や“荷物運び”などが基本です」
ホッとしたのび太は、迷わず「荷物運び」の依頼を選んだ。リューシカは呆れたように肩をすくめたが、口を出さなかった。
目的地は村の端にある倉庫から、近くの農場までの荷物の運搬。依頼書には「穀物袋(約30kg)」と書かれていた。
「30キロぉ!?」
袋の端に手をかけて持ち上げようとした瞬間、のび太の腰が「ピキッ」と悲鳴を上げた。
「い、いたたた……ムリムリムリ!」
隣で見ていた農場の爺さんが、大爆笑しながら手伝ってくれたものの、のび太の顔は真っ赤だった。
なんとか袋を引きずって目的地へ向かっていると、途中の段差で足を取られ、袋ごと地面に転がってしまった。
「うわあああああっ!?」
土埃を上げながら、のび太は顔から着地。荷物は無事だったが、全身は泥だらけだった。
村に戻ると、リューシカが腕を組んで待っていた。
「どうだった?」
「……僕、もうダメかもしれない……」
のび太はうなだれた。手は豆だらけ、腰は痛む、誇りもズタボロ。
「はっきり言って、あんたは“チート”とは程遠い。筋力1で30キロなんて、そもそも無謀だった」
「ひどっ……」
「でもな」
リューシカはポケットから何かを取り出した。のび太の手にそっと置かれたそれは、小さな革袋だった。
「これは?」
「報酬だよ。1シルバー。あんた、自分の力だけで初めて金を稼いだんだ」
それはたった1枚の銀貨。でも、のび太にとっては、確かな証だった。
「僕……稼いだんだ……」
泥だらけの手の中で銀貨がきらめく。それは、のび太がこの世界で踏み出した、ほんのわずかな自立の光だった。

